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岸和田生活保護裁判判決確定を受けての声明の紹介

岸和田市生活保護裁判判決について、岸和田市が控訴せず、確定しました。
現在審議されている生活保護法改訂案とは両立できない判決内容を指摘しています。
是非お読みください。

http://seikatuhogotaisaku.blog.fc2.com/blog-entry-179.html


2013年11月15日

地裁判決確定を受けて合同声明


岸和田生活保護訴訟弁護団
岸和田生活保護訴訟 原告
岸和田市生活保護申請(却下)の取り消しを求める裁判を支援する会

1 はじめに
 岸和田市は、大阪地方裁判所第7民事部合議3B係(田中健治裁判長)が平成25年10月31日に言い渡した、岸和田市福祉事務所長の行った生活保護却下処分を取り消し、岸和田市に対し、慰謝料等の損害賠償として68万3709円の支払を命じる判決に対する対応として、昨日、控訴を行わない旨の市長コメントを発表し、本日、地裁判決が確定しました(以下、「確定地裁判決」と言います。)。
 また、本日現在、生活保護の申請に必要事項を記載した申請書の提出を求め、扶養義務者に対する調査権限を強化するなどの生活保護法改訂案が、参議院にて可決され、衆議院に回付されており、その審議を控えている状況です。

2 事案の概要
 本件は、派遣切りに遭って新たな仕事を探し続けても見つからず日々の食事にも困るようになった原告が、岸和田市福祉事務所に生活保護申請に赴いたところ、門前払いをされ、その後も、5回も生活保護申請を却下され続けたことについて、岸和田市を被告として、却下処分の取消しと、精神的苦痛に対する慰謝料を求める行政訴訟でした。

3 判決の内容
 地裁判決の内容の要点は、概ね次の2点に集約されます。
(1)水際作戦の断罪
 まず、生活保護を実施する機関の義務として、福祉事務所に相談に訪れる者の中には、真に生活に困窮し、保護を必要としている者が当然に含まれており、そうした者の中には、受給要件や保護の開始申請の方法等につき正しい知識を有していないため、第三者の援助がなければ保護の開始申請ができない者も多いという現状を述べたうえ、保護の実施機関としては、このような者が保護の対象から漏れることのないよう、相談者の言動、健康状態に十分に注意を払い、必要に応じて相談者に対し適切な質問を行うことによって、その者が保護を必要としているか否か、また、保護の開始申請をする意思を有しているか否か、有している場合には保護の開始申請手続きを援助することが職務上求められているとしました。
 
 地裁判決の判断は、原則的に申請によって保護が開始されるという法(7条)の建前ではあるものの、保護申請のために福祉事務所に相談に訪れる者には、積極的に実施機関側においてその言動に注意をはらい、発問するなどすることによって正しい情報を提供し、必要な援助をおこなわなければ申請が行えない事情があるという現状を受け、要保護者が申請することができるよう援助する職務上の義務を肯定したものです。

 現在、改訂が審議されている生活保護法24条1項が、従前、申請行為は口頭によっても行えるという司法判断の存在にも関わらず、必要事項の記載された申請書の提出を求める形式に変更しようとすることは、これらの司法判断や今回の地裁判決と両立し難いものと言わざるを得ません。

 申請書の提出を求めるのであれば、少なくとも最低限、福祉事務所の窓口に生活保護申請書を備え置き、要保護者はじめ生活保護申請のために相談に訪れる誰もが分かるよう申請書の存在をアナウンスすること、申請書への記載方法、記載に必要な事項を失念等のため記載できない場合の手当てや支援など、漏給防止措置をとることが不可欠であり、よりきめ細かな支援が徹底して行われなければなりません。

 確定地裁判決の判示によれば、仮に改訂生活保護法案が成立し、施行された状況下においても、申請書の提出不備や記載漏れなどを理由とする申請不受理は実施機関に求められる職務上の義務の免責とならず、また、生活保護を受ける要件を充足しているにもかかわらず誤った教示によって申請をさせなかったという水際作戦は明白な申請権侵害行為として、許容される余地もありません。

(2)いわゆる「真摯な」努力論との決別
次に、生活保護法4条1項が定める稼働能力活用要件につき、確定地裁判決は、憲法25条の理念に基づく生活保護法の立法趣旨を勘案して判断すべきとし、①稼働能力があるか否か、②その具体的な稼働能力を前提として、その能力を活用する意思があるか否か、③実際に稼働能力を活用する就労の場を得ることができるか否か、によって稼働能力の活用要件を判断するとする枠組みを維持しています(なお、確定地裁判決は①~③の要素の関係を、「稼働能力があるか否かについては、稼働能力を活用する意思や稼働能力を活用する就労の場の判断とも関係してくる」と述べていることから、分断された各個別の要件としていないことは重要です。)。

そのうえで、①については、稼働能力の有無だけでなく、稼働能力の程度についても考慮する必要があり、かつ、稼働能力の程度は、申請者の年齢や健康状態、生活歴、学歴、職歴等を総合的に勘案する必要があること、②については、申請者の資質や困窮の程度等を勘案すべきと指摘しつつ、当該申請者について社会通念上最低限度必要とされる程度の最低限度の生活の維持のための努力を行う意思が認められれば足り、③については、申請者が求人側に対して申込みをすれば原則として就労する場を得ることができるような状況か否かによって具体的に判断し、有効求人倍率等の抽象的な資料のみで判断してはならないとしました。また、ここにいう「就労の場」とは申請者が一定程度の給与を一定期間継続して受けられる場をいう、と判示している点も画期的なものです。

 この判断は、稼働能力を巡る各地の先行訴訟で示された司法判断を踏襲しており、申請者の資質や困窮の程度等に応じ、当該申請者にできる稼働能力の活用意思の発現態様が変化することを確認しており、「真摯な」努力を求めるとする厚生労働省の通知のような、きわめて恣意的運用を許すファクターを否定するものとして評価できます。

 各地の稼働能力訴訟の積み重ねとして示されてきた司法判断は、すべて一致した方向性を示し、その帰趨は今回の確定地裁判決によってほぼ決定づけられたものと考えます。

4 確定地裁判決に対する岸和田市の対応を受けて
 被告岸和田市長は、控訴期限であった昨日、以下のようなコメントを発表し、控訴を行わないことを発表しました。

「本市敗訴の判決があった生活保護却下処分取り消等請求訴訟について、判決内容を精査し、厚生労働省等の関係機関と協議を行い、総合的に判断した結果、控訴を行わないこととしました。なお、今回の地裁判決を踏まえ、今後とも、生活保護制度の適正な事務執行に努めてまいります。」

 私たちは判決言い渡し日当日から岸和田市に対する控訴を行わないよう要請する行動に取り組んだ成果が結実し、また、岸和田市厚生労働省はじめ関係機関において控訴を行わないという決断、カウンター越しの対立を乗り越え、生活困窮者の支援という共通目標に向け、生活保護法の適正な実施に向けた基盤ができたことを歓迎します。

 私たちは、今回の確定地裁判決を受け、岸和田市に対して以下のことを求めます。
(1)第2却下処分取消判決の拘束力に従い、岸和田市福祉事務所長は、早急に、原告に対する第2申請に対する生活保護開始決定と給付を行うこと。
(2)市長コメントに基づき、確定地裁判決をふまえた、生活保護制度の適正な事務執行体制を確立すること、具体的には、稼働能力活用要件等の判定方法や、申請窓口対応に関する運用の改善、申請書を窓口に備え置くこと。
(3)厚生労働省に対し、(2)に挙げた適正な事務執行を可能とするためのケースワーカーの負担軽減や増員等実施体制環境の確立、および、稼働能力の活用要件の充足の判定にあたって「真摯な」努力論を維持している通知の是正を働きかけること。

5 厚生労働省に対して
 また、私たちは、今回の確定地裁判決を受け、厚生労働省に対して以下のことを求めます。

(1)生活保護法「改正」法案について
 先に述べたとおり、確定地裁判決で示された内容と今国会で審議中の生活保護法改訂案は、基本的に両立し難いものです。

 発表された岸和田市長のコメントにあるとおり、厚生労働省も、確定地裁判決に対する控訴の検討会議に関与し、その内容を協議、精査した結果、控訴をおこなわないとの結論に達し、地裁判決を確定させていることは明らかです。
 すなわち、確定地裁判決において判示されている内容を正当なものと認めているわけですので、確定地裁判決と両立し難い生活保護法改訂案は撤回すべきです。

(2)生活保護法の実施要領の改訂について
 本件事案の背景には、厚生労働省の実施要領において、稼働能力の活用について、「真摯な努力を求める」という加重な要件を課していることに要因があり、要保護性をもつ稼働年齢層にある生活困窮者が不当に生活保護を利用できないという同種事例が全国的に多発しています。
 今後、このような事件の再発を防ぐためには「真摯な努力を求める」という加重な要件を廃し、本件判決の「稼働能力」の活用に関する考え方に基づいて、実施要領を改訂すべきです。

以 上