<憲法はどこへ>どう考えますか 子どもの貧困 上 神様なんていないよ 北海道新聞
<憲法はどこへ>どう考えますか 子どもの貧困 上 神様なんていないよ
【第25条】すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
《2》国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
【第26条】すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
《2》すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育は、これを無償とする。
足首と肘から先がむき出しのジャージー。「大丈夫、全然はけるよ」。中学2年の崇君(14)=仮名=は笑って、学校に向かった。道子さん(38)=同=は泣きたくなる。「ごめんね」
□風呂代節約
ジャージー上下で約1万円。入学以来、身長が22センチ伸びたが、買い替えていない。崇君は家で着ようとしない。「買わなきゃと心配すると思って」と言った。道子さんの夫は10年前に仕事を辞め、暴力を振るうようになった。当時5歳と2歳だった子どもの世話をしながら、美容師の仕事で家計を支えた道子さんを殴り、蹴った。家を出たのは7年前。首を絞められ「殺される」と思った。道央の施設に逃げ込み、以来2DKに3人で暮らす。元夫に見つかるのが怖くて、道子さんは外から見えない飲食店の厨房(ちゅうぼう)で働く。月収は児童扶養手当などを足しても16万円ほどだ。施設にある10分間100円の風呂を使うのは3日に1回。道子さんは崇君と長女(11)に、20分間分をそれぞれ渡す。2人は急いで体を洗い、100円残してお小遣いにする。1カ月でたまるのは千円ほど。ゲームセンターに遊びに行く友達と距離を置き、崇君は「遊ぶの、そんなに好きじゃないから」と出掛けなくなった。「ゲームクリエーターになる」。崇君の夢だ。道子さんは専門学校の資料を取り寄せ、入学金や授業料を見て目を丸くした。「こんなお金、払えない」。まだ崇君には、伝えていない。憲法は25条で生存権を、26条で教育を受ける権利を保障する。「二つが隣り合うのはなぜか」と名寄市立大の山野良一教授(社会保育学)は問う。「人間らしく成長する権利の26条があって初めて、子どもにとっての生存権が確保される」と強調する。「子どもの貧困は金銭だけの問題ではない。人とのつながりや成長する機会、進学の選択が失われるだけでなく、時に意欲すら奪ってしまう。人権問題として考えなければ」
□毎晩お祈り
札幌市の小学3年生、賢太君(9)=仮名=は毎晩眠る前、「賢太の神様」にお祈りする。「おもちゃを買ってもらえますように」「冷蔵庫やテレビが壊れませんように」…。両手は胸の前に、ちゃんと組んで。賢太君は母幸子さん(44)=仮名=と2人暮らし。父親は仕事を転々と替え、一方で高級車などを買って多額の借金をつくった。離婚したのは、賢太君が5歳の時だ。幸子さんは今、派遣社員として働くが、月収は8、9万円。足りない分は生活保護費などで補う。賢太君は他人とのコミュニケーションが、ちょっと苦手だ。もっと色んな体験をさせたい、何センチでもいいから可能性を広げてあげたい―。「お金がないからできない、と言いたくない」と幸子さん。でも中学、高校と、ますますお金はかかるだろう。うれしいはずのわが子の成長を「手放しで喜べるだろうか…」。今から気分が落ち込む。昨年11月、たどりついたのが、学習支援に取り組むNPO法人の勉強会。1回500円で参加できる。先生は大学生や社会人。さまざまな年の子どもも集う。月3回、送り迎えの交通費は何とか捻出した。賢太君は楽しく通っているように見える。「神様なんて、信じてるの?」と賢太君は最近、周囲にこう話しかけた。「そんなの、いないんだよ」
だけど、毎晩のお祈りは今も続けている。「本当はかないっこない、と思ってるのかな」と幸子さん。それがとても、切ない。