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<憲法はどこへ>どう考えますか 子どもの貧困  下    私は「架空」じゃない

◆平成28(2016)年11月9日 北海道新聞 朝刊全道

 <憲法はどこへ>どう考えますか 子どもの貧困  下    私は「架空」じゃない

【第25条】すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

《2》国は、すべての生活部面について、社会福祉社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

【第26条】すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。

《2》すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育は、これを無償とする。

 

 私はほかの子と違う。まやさん(20)は、初めてそう感じた時を覚えている。「あいつ、いつも同じ服。洗ってないんじゃない」「汚いね」。2005年ごろ。後志管内余市町内の小学校の教室で、同級生がささやき合うのを聞いた。当時、父と兄2人の4人暮らしだった。父は重い糖尿病で働けず、「物心ついた時から」生活保護費が支えだった。お風呂は3日に1回、服は兄のお下がりで、何日も同じものを着た。「それが普通だと思ってたのに」。次第に、友人とは疎遠になっていった。中学に入った頃から父の病状は悪化、寝たきり状態になった。家事と介護をほぼ1人でこなした。学校を休む日が増え、定期試験も満足に受けられなかった。高校3年の夏、朝起きると、父はベッドで冷たくなっていた。金銭的に頼れる身内はいない。就職するしかなかった。「進学は諦めろ。そういう家に生まれたんだから、仕方ないだろう」。担任教諭の言葉は、ずっと胸に残っている。

□残らぬお金

 まやさんは今、札幌市内で、二つのアルバイトを掛け持ちする。憧れの添乗員になりたくて、専門学校の入学金など数十万円をためようとしている。週5日、午前11時から午後4時までは飲食店の厨房(ちゅうぼう)で、午後8時から翌午前4時まではススキノのバーで働く。月の収入は約15万円。かつて滞納していた家賃などの返済に充てると、手元に残るのは4万円程度だ。食べていくことはできる。だが働いても、お金は残らない。「もう貧しさからは抜け出せないのかも」。見失いそうになる夢を、何とかつなぎとめている。憲法25条が保障する「最低限度の生活」とは何か―。1957年の「朝日訴訟」をはじめとして、常に意見が割れてきた。「何が貧困か」の議論も同様だ。「食べる物にも困る」飢餓状態などを示す「絶対的貧困」は、誰でも容易に想像できる。だが、子どもの貧困問題に取り組む公益財団法人「あすのば」(東京)の村尾政樹事務局長は「子どもの貧困とは、取り巻くいろんな環境や資源が枯渇し『困っている状態』のこと。そこから救えなければ、いつまでも窮状を抜け出せない」と強調する。「結局、子どもの時からの苦しさは、ずっとついて回るの」と札幌市のあすかさん(30)は言った。母(60)と2人暮らし。あすかさんが中学生のころ、大黒柱だった母は病に倒れ、生活保護を受け始めた。あすかさんは中学校で、貧困を理由に激しいいじめを受けた。「先生も近所の人も、大人は誰も助けてくれなかった」。中学2年から学校は通っていない。

□一生続くの

 あすかさんは今も、車いすの母をつきっきりで介護している。しばしば発作を起こす母から、目が離せない。働きには出られない。生活保護も抜け出せない。「貧乏人は貧乏人らしく、ボロボロの服を着て、こっそり生きていけばいいの。同情されて暮らしていけるんだから」。知人から、そう言われたことがある。何もない空間に突然、太い「線」を引かれた気がした。決して出ることを望んではいけない線。「貧困は一生、その中にいろ」。そう聞こえた。「おまえらなんか、見たくないって」

 今回の記事で、「まや」「あすか」は実名だ。まやさんもあすかさんも仮名を嫌った。「こんな子、本当はいないんじゃないかと思われたくない」。私たちみたいな子は、きっとたくさんいる。道を行き交う人たちの、すぐ隣にも。「私は『架空』の人物じゃない」

*行政の対策 根本解決遠く

 2014年に施行された子どもの貧困対策法に基づき、政府は同年、教育支援や保護者に対する就労支援などを掲げた大綱を策定。都道府県には「地域の実情を踏まえた」子どもの貧困対策について、計画の策定と実施を義務づけた。今年8月からは低所得のひとり親家庭に支給する児童扶養手当について、第2子の加算額を月額5千円から最大1万円に引き上げ。経済的に苦しい家庭の大学生らを対象とした給付型奨学金創設も検討しているが、導入時期や財源など具体案はまとまっていない。一方で国は13年度以降、生活保護の基準額を段階的に引き下げており、子どもの貧困を根本的に解決するための対策は進んでいるとは言い難い。日本財団は15年、子どもの貧困を放置した場合の社会的損失額を公表した。貧困対策が必要な子どもの高校進学率や中退率を、全国平均並みに改善させるなどの支援をした場合としなかった場合について、64歳までに得られる所得差を試算。15歳の子どもをモデルに計算した損失額は、全国で計約2兆9千億円に上る。うち北海道は1506億円で、総生産額に占める損失の割合は0.83%。沖縄や高知などに次いで、全国で5番目に高かった。