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[貧困 いま女性は](7)ひとり親 正規雇用に壁(連載)

◆平成28(2016)年11月20日 読売新聞 東京朝刊

 [貧困 いま女性は](7)ひとり親 正規雇用に壁(連載)

 ◇安心の設計

 ◇職歴ブランク/転勤・長時間労働できない

 離婚の増加を背景に母子家庭が増えているが、シングルマザーの平均年収は223万円と、経済的に苦しい家庭が目立つ。背景を探ると、キャリアにブランクがあるなど思うように働けない“壁”が浮かび上がる。母子家庭の困窮は子どもの貧困につながるため、対策は急務だ。

 「40代でチャンスがあるうちに正社員になりたい」。東京・渋谷の繁華街の一角にある「マザーズハローワーク東京」で、ひとり親の相談窓口を訪れた女性(41)は話す。1年前に離婚し、長女(7)、長男(4)と3人で都内のアパートに暮らす。元夫は高収入だったが、家では自分や子どもに暴言を吐き、理由もなくどなりつけた。おびえながら暮らすうちに、長女が情緒不安定になり、自分も体調を崩して、ついには入院。役所の女性相談窓口に行くと、「典型的な言葉の暴力だ」と言われた。離婚して、笑顔は取り戻したが、家計は苦しくなった。保育所の調理補助とファミリーレストランの厨房(ちゅうぼう)のパートを掛け持ちしたが、勤務先の都合で働く時間が抑えられ、月収は9万円弱。大半が家賃に消えた。7年前に出産で辞めるまでは大手印刷会社の正社員などをしており、コンピューターで画像を編集する技術に自信があった。「すぐ正社員に戻れるはず」と考え、パートの傍ら人材派遣会社に登録。しかし、担当者に「ブランクが7年ある」と伝えると、「今は使っているソフトが違う。封筒を数える仕事ならありますよ」と鼻で笑われた。諦めかけた時、マザーズハローワークを知り、再び正社員を目指すことにした。パートの契約が先月で切れ、現在は求職活動に専念している。主な収入は元夫から振り込まれる月12万円の養育費と児童扶養手当で、貯金を取り崩し、何とかやりくりしている。厚生労働省の調査によると、シングルマザーの8割は働いているが、半数が非正規で、2010年の平均就労年収は181万円。手当や養育費を入れても平均年収は223万円で、子どものいる世帯全体の平均の3分の1程度。正規雇用を望んでも、子育てで職歴のブランクがあったり、長時間労働や転勤ができなかったりと、高い“壁”がある。

     ◇

 より複雑な問題を抱え、就労が困難な人も多い。「1歳でも若いうちに働きたいけれど……」。東京郊外に住むシングルマザーの女性(47)はうつむいた。元夫の家庭内暴力(DV)が原因で、10年前に離婚した。正社員の事務職だったが、離婚成立前に職場のリストラで失職。正社員の職を探したが、時代が変わり、事務仕事の多くは派遣に替わっていた。何十社と電話したが返事すらないことも多く、「世の中に不要な人間」と言われているようで、気持ちが沈んだ。飲食店などのパートを転々とし、夜も働くうち、DVの影響で離婚後に発症したうつ病が悪化。体調が少し良くなっては無理してパートを始め、また症状が悪化して辞めるという状況が続いている。今は月10万円の養育費と重い知的障害がある長男への手当が生活の頼りだ。自立できない長男の将来や、「大学を出て公務員になりたい」と勉強に励む長女の学費のためにも、貯金したい。「病気を治してちゃんと働きたいが、そんな日が来るのか……」

 ◇母子世帯 全国に124万

 厚生労働省の全国母子世帯等調査によると、2011年の母子世帯は約124万世帯。離婚の増加を背景に、28年前の1・7倍に増えた。約14%は生活保護を受給するなど経済的に厳しく、ひとり親世帯の子の大学進学率は23・9%と、全世帯平均の半分以下だ。母子世帯の現状に詳しい労働政策研究・研修機構の周燕飛(しゅうえんび)主任研究員は「日本では男女の賃金格差が大きく、離婚すれば即貧困につながる」と指摘。国は母子家庭を対象に、パソコン講座や企業への雇用助成金など様々な就労支援をしているが、検証データが少ないこともあり、「収入増の効果が明確に確認できたものはほとんどない」という。賃金が高い正社員は残業や転勤が多く、非正規社員は賃金が低いという働き方の二極化も問題という。母親の就労支援を行うマザーズハローワークは、全国21か所で、4月からひとり親担当の相談員を配置。「マザーズハローワーク東京」の相談員、伊藤直子さん(59)は「一人で抱え込まず、色々な支援を利用してほしい」と話す。